ひきこもりの治療
ひきこもりとは思春期・青年期に起きる問題で、6か月以上自宅にひきこもって社会参加をしない状態が続き、ほかの精神障害がその第一の原因とは考えにくいものを言います。
爽風会佐々木病院は20年以上にわたり、ひきこもりの治療を行ってきました。今までに数多くの方がひきこもり状態を脱するお手伝いをしてきました。1998年には世界初の「ひきこもりデイケア」を開始し、ひきこもり治療の最先端を行く医療機関として認められています。
診療部長であり、また社会的ひきこもり研究のパイオニア・治療のエキスパートである斎藤環(精神科医)は各地での講演、ひきこもりに関する専門向け・一般向けの図書執筆、テレビでのコメントなどを通じてひきこもりに関する啓蒙活動を行っています。
また爽風会佐々木病院では豊かな経験を生かし、ひきこもり治療について情報発信を行っています。県内・県外より数多くの精神保健専門家が見学・研修に参加しています。保健所、精神保健福祉センター、民間団体、家族会との連携を行っており、当院主催の研修会には多数の支援職(医療のみならず、福祉、教育、行政関係も数多く)が参加されています。厚生労働省の研究もおこなわれてきました。
外来・入院・デイケアでは積極的にひきこもりの治療を行っています。まずは外来受診をお勧めいたします。ご家族との関係を調整する必要がある場合、あるいはうつなどの症状が重くケアが必要になる場合は入院をお勧めします。デイケアは社会との接点を取り戻すために非常に有効な方法です。規則正しい生活リズム、失われた人間関係を安全な環境でもう一度取り戻しましょう。当院デイケア利用中の方に限られますが、家族会を通じてご家族のサポートを行っています。
ご当人が受診できず、家族・関係者の方のみの相談をご希望される場合は関連の相談機関であるこころのドア船橋をご紹介いたします。
次に斎藤環医師によるひきこもりについての論説をお読みください。
青少年の社会的ひきこもりについて
「社会的ひきこもり」とは 斎藤環 (爽風会佐々木病院 診療部長)
2000年2月に発覚した新潟県柏崎市の少女監禁事件では、37歳の容疑者が十数年余におよぶ「ひきこもり」状態にあったと報じられた。高校卒業後、数ヶ月間就労したものの些細なきっかけで退職した彼は、以後まったく就労せず、自室にこもりきりの生活を送っていたと言われる。うまが合わない高齢の父親は施設に預け、保険の外交員として働く母親を奴隷のように使役し、気に入らないと家庭内暴力をふるう。容疑者は父親の死後、母親と監禁していた少女以外には友人もおらず、誰とも対人関係を結ばずに生活していた。
思春期・青年期の精神医学領域で、近年こうした問題行動としての「ひきこもり」が取り上げられることが多くなった。ほぼ同義語として「閉じこもり」「アパシー」「非分裂病性ひきこもり」「無気力症」などがあるが、いまだ正式な呼称は存在しない。私は著書中で「社会的ひきこもり」という言葉を用いたが、これはアメリカ精神医学会の編纂した診断と統計のためのマニュアル「DSM-IV」の中で、 "social withdrawal"と呼ばれる症状名の直訳である。DSM-IVの普及率や、比較的ニュートラルな名称なので受容されやすいと考えて採用した。どのように呼ぶにせよ、この概念の普及のためには、呼称のレヴェルでの統一が待たれるところではある。
「社会的ひきこもり」は診断名ではない。これを臨床単位とみなすことは出来ない。それは「不登校」が臨床単位ではないのとほぼ同じ理由からである。それは一つの状態像であり、問題群である。精神医学の中で類似の概念を見つけるなら、「アルコール関連性障害」がもっともこれに近い。これは「アルコール」をめぐって生ずる依存症、臓器障害、暴力、交通事故などといった、精神・身体・社会など複数の領域にまたがる諸問題の総称である。私の考える「社会的ひきこもり」の問題は、「ひきこもり関連性障害」として理解することが、さしあたり最も正確であるように思われる。
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